徳島県の吉野川を、西へ70キロほど遡ると、流れが南へと大きく変わる。
その先は名所の大歩危小歩危があるので、ご存知の人も多いでしょう。

この川の向きが変わる場所から、南北に国道32号線が走っている。

徳島自動車道でいうと、井川池田というICになる。

吉野川を渡り、32号線を琴平方面に向かう山中に、土讃線「坪尻駅」は存在する。
猪ノ鼻トンネルは行き過ぎで、もう少々手前に標識があるので、注意して欲しい。

私が初めて知ったのはTVタモリ倶楽部でした。

なんでも、日本の在来線の駅を、全て下車したって言う人が登場し、
色々な思い出を語っているのだが、司会であるタモリが、
「やはり一番思い出に残っている駅は、最初に紹介してくれた所ですか?」
との問いに。
「いえ、一番印象深いのは四国にある坪尻駅です」と答えていた。

四国の林道ばかり出向いている私ですが、こればかりは見て見ぬふりできません。

なんでも駅周辺に民家は無く、駅に行く道も無い。
なぜこのような場所に、駅が存在しているのか、理解できない。というコメントが気になったのです。

そして今回そのチャンスが巡ってきたので、坪尻レポートを書き記そうと思ったわけです。





国道32号線。この道!?何回も利用していました。しかし・・・・左写真に有る「坪尻駅」
の標識は全く記憶にありませんでした。

比較的新しい標識には「坪尻駅 0.6K」と有ります。

写真では分かりにくいですが、バイクを止めるスペースが少なく気を使います。
大型トラックの往来が激しくなお更です。行こうかと思っている人は注意が必要です。

標識近くを調べてみると、道とは思えない道が存在しています。(右の写真)



ここじゃないんじゃない?と言いつつ周辺を見回しますが、それらしき道はこれだけ。

その道へ入ってゆくと、3メーターほどで舗装は終了。
そこから6メーターほどは路肩部分にコンクリートを打っていますが・・・・・。
そこでおしまい。

そして林道・・・いや。ガレ場・・・・いや。獣道!
そう獣道。
国道、県道、市道、私道、農道、林道、ガレ場、獣道!

そう!その獣道!



だんだん幅が狭く、平らな部分が少なくなり、路面が湾曲してくる。
落ち葉は深くなり岩盤が隆起。

松は倒れ仲良く竹も倒れる。
竹は松に負けたくないのか、10メートルほどのトンネルを作っている。
猪の子供!瓜坊が喜びそうだ!それを想像すると、こっちも嬉しくなってくる。

そして獣道から太陽光が遠くなってゆく。



とおに獣道はお腹一杯になっているが、獣道はそんなこと知った事ではない。

雨も降っていないのに、獣道は湿っている。
勾配も激しく、ここから落ちたらえらいことになるのは想像できる。

骨でも折ったら、救急車のストレッチャーに寝かされ、救急隊員に
運ばれながらも、3回の転倒は覚悟しなくては。



寒さを尺度に使わせていただければ、しもやけを越え凍傷に差し掛かったところぐらいで
獣道を抜ける事が出来る。

ここが?駅か?
いやこりゃ廃墟である。中を覗いてみると・・・・何か御茶屋のような造りにも見えるが。



傍らにTLMが一台。そんなに古くなさそうで、エトスのサイレンサーが装着されている。
なかなかそそられる車両。
ウイリーでひっくり返ったのか、折れてしまったRフェンダーを針金で縫っていた。
その仕事も脳裏に納めた。

そこから目線を右へ向けると、駅の雰囲気を感じ取れる。

標識に「止まれ見よ」とあるが、あの獣道を歩いてきた人間に向かって言っているのか?
あの道を完歩した人間に向かって注意を促すとは。胸が掻き毟られる思いだ。

そこは百歩譲ってその標識を認めよう。
しかしそれならば、あの獣道に「まむし注意」「猪優先」の標識も設置してほしかった。



おおっ!いい感じです。

きっと、寅さんなら。「あの駅で降りても、何にもないよお兄さん」って言われそうです。

さっ、踏み込みますか。

 

私、レールには詳しくないのですが、スイッチング?って言うんですかね?
ここに止まる電車はいちど駅を通り過ぎ、バックで到着するようです。

だって本線だと右の線路で止まる事になり、そこはまさしく本線。
左の線路の先は切れています。見難い写真で申しわけないです。

駅の手前にお手洗いが存在しますが、ちと覗いてみましょう。

 

トイレは・・・・やっぱお決まりOBしております。
こお言う便所って必ずOBしてますよね。困ったモンです。

便器の中も覗いて見たかったのですが、中からも誰か見ているようで、怯んでしまいました。

小便器の前はコケが生していました。

 

そしてこれが駅の正面口。中央改札口です。

それと中から外を見たものが右の写真。駅前のローターリーと言ったところか。

綺麗に見るでしょうが、草が刈り込まれているのはこの正面部分だけで、
この道が、何処かへ繋がっているわけではありません。



これはH19年12月7日現在の時刻表です。

結構停まりますね。
この駅、探偵ナイトスクープで平均乗車数を調べたそうですが、24時間で4名だったそうです。
因みに夫婦が乗車し、その夫婦が帰ってきただけだそうです。

 

誰かが置いた犬くぎプレ。三本と書かれているが残り一本になっていた。
これを見ているチミ!もう行っても無いですよ。フフッ。

そのメモの横に寄せ書きノートがぶら下がっている。
そお言えば私が初めてこのようなノートを目にしたのは・・・・。
初めて言った○ブホテルで、馬鹿なことが書かれて・・・・。いやそんな事はどうでもいいじゃない。

とにかく、詰らんことが書かれているんだろぐらいにしか
思っていなかったのだが、あるキーワードが目に飛び込み、私の心に深く刻まれる事になった。


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私は幼少期を、坪尻周辺の農村で育った。

遊び盛りの私は山を走り、川を泳ぎ、疲れきった体で家に帰った。
毎日おなじ事を繰返しても、飽きる事などなかった。

あるとき、私は山の中で迷ってしまったことがある。
見慣れた自然は孤独の空間と変わった。

林を抜け、藪をかきわけても、見慣れた風景は現れてこず、
両親の顔を思い出し、心細くなった。

それでも藪をかきわけると、ぽっかりと空間が現れた。
そこが初めて見る坪尻駅だった。

直線の構造物はそれだけで、人の温もりを感じる事が出来た。
駅周辺に居た人に、家まで送ってもらった事を、今でも覚えている。

それから48年。
徳島を離れ、東京で就職し、私は人に紛れた。
今思うと、そこは見慣れない薮の中だったのかも知れない。

子供が万引で補導され、食卓が静まり返ったそのとき、何故か坪尻が思い出される。
嫁ぐ子供の心遣いであった、風呂上りの下着の支度も、忘れず自分で出来たとき、
ふっと、思い出されるはふるさと。

「男は泣き顔を見せるな」そう子供に言い聞かせてきた私だが、
何故かあのふるさとを思い出すと、胸が熱くなる。

「我慢しなくてもいいじゃないか?」と、やはり我慢する。

幼くして両親を亡くした。だからそれ以上に土地に執着しているのか。

もう、あの場所には二度と行く事はないのだろう。
暖かい両親も、全てを包んでくれた生家も、もうそこには無いのだから。
雨が上がった草の匂い。
鳴り止まない蝉の声。
切れるような川の冷たさ。

そう思うとやりきれなかった。
でもそれが現実だと思っていた。

妻がなぜ「故郷を尋ねてくれば」と勧めてくれてのかわからない。
もう知る人もなく、あの時の風景も薄れていったが、
下車する前から、私は涙で視界が曇った。
一人で行かせてくれた妻に感謝した。

そして私はまたここへ来る事が出来た。

突っ伏し、嗚咽を自然に任せた。

あの藪をかきわけると、おふくろが両手を広げ待っている気がした。
その横で腕を組んだおやじが、「男は泣くもんじゃない」と、叱られそうな気がした。

もう来る事はないと感じていた坪尻駅に降り立っている。

どこが変わったか?何も変わっていない。
自分が変わったのか?いや変わっていないじゃないか。

忘れがたきは故郷。



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最近は自費出版とかで、自伝的な本を作れるらしいですね。

機会が有りましてわたしそれを読んで見ました。
まっ、決してお勧めできるものでは御座いません。

しかし、この1ページほどのスペースで、私は人生の重さを感じる事ができました。

そう思うと、下車して最初に目に入るこの「おつかれさまでした」の看板から、人から
人への思いやりを感じずにはいられない。

このノートに記した人物は、特別な人ではない。
それは通勤途中に目にする、見慣れた他人であり、キャッシュサービスで並んでいる
後ろの人だったりするのだ。

人の居ない所で人の温もりを知る。

 

気分を変えて回りを見渡す。

最近では極めて、当たり前になってきたので、見落とすところだったが、
何と!喫煙コーナーがある。

夏場に訪れると、ハブから身を守らなくてはならない所を通り、
喫煙コーナーって言われてもな。

それと乗車下車は複雑そうなので、記載しておく。



待合所って言われてもな!



そこへ突然列車が通り過ぎた。
静かなだけにビックリした。

小さくなってゆく列車を見ていると、日が傾く前にここを後にしようと、
珍しく思った。

そうそう、日本人で良かった。とも思ったよ。


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